
※写真左から荒木、馬上、坂入各校舎長とコーディネーター鈴木。
鈴木;本日は駿台フロンティアJr.で中高一貫生を指導していて、普段感じていることを忌憚なく語り合えればと思っています。最初のテーマですが、中高一貫生が、現役で大学入試を突破する秘訣は何だと思いますか。
坂入;勉強に関して指示待ちではなく、自ら勉強できる態勢を取れるようになることだと思います。そういう生徒を、駿台の中高一貫6年間の教育の中で育てていきたいと思っているので、宿題も出すし、宿題の出来ていない生徒を時には残すこともあるでしょうけども、原則僕らが出した宿題を、あるいは膨大な量の課題を与えて、これだけやっておけば完璧です、というような方法は取りません。これは新中1の保護者会でもはっきり言います。
荒木;中高一貫中学生の多くが、駿台の場合、2科目受講ですね。土曜日に英語と数学をまとめて受ける子もいるので、週に1日か2日しか教室に来ないわけですよ。僕が教室を預かる立場として一番の目標にしていること、それは週に1日か2日しか来ない子が、3日4日、あるいは毎日でも来たいと思う教室にしようということです。この子たちは教室に来れば、遊んでいるわけにはいかないので、なんだかんだいって勉強をします。そうすると自分の中学受験のことを思い出すのでしょうね。こうなると、この子たちは素晴らしい力を発揮するなあ、というのが正直な感想であり発見です。だから中高一貫の子たちの力を伸ばすためとか、あるいはよく言われる『一貫生の中だるみ』に対処するためには、この子たちの「居場所」を作ってあげること。それが回答の1つになるのではないかと思っています。
坂入;確かに勉強する癖はついていますからね。「場」を与えてあげるというのは大切なことですよね。適切な場を与えられたことによって、中には自発的ではない形で駿台に通ってきているのかなという生徒も、好きでこの場所に来ていると、徐々に変化していく様子が見ていて感じられるときがありますね。
荒木;ただし何やれというのは、原則言わないようにしています。お母様たちにも授業がない日でも是非駿台に来てくださいとは言いますが、僕たちは子供たちにアレやれコレやれとは言いませんと、自分で自分の勉強方法を見つけてくださいとよく言っているんです。加えて失敗してもいいでしょと。3年後に高校受験があるわけではないのだから、次の勝負は6年後なんだから失敗は許されるでしょと。だから失敗してもいいから、自分に合った勉強方法を自分で見つけなさいと言っているんですね。
実際、毎日のように教室に勉強に来ている生徒が出てきているし、こうして自分なりの勉強方法を見つけられた生徒は、本当に成績が上がっていきます。
馬上;少し話が逸れるかもしれないですけど、自習室に来ている中学生たちを見ていると、自分の将来のことや、日本のことや、社会問題を、こんなにも深く考えているのかということに驚かされることがあります。最近面談をした生徒で、国立の中高一貫校に通う生徒がいました。お父様は総合病院の内科医だそうです。その生徒は小さい頃からお父様の病院によくお弁当を届けに行っていたそうです。でも本当は病院に行くのが好きではなかったらしいのです。それはなぜかというと、病院に漂う『陰』の空気が子供心に何とも言えなかったからだそうです。ただ、そんな病院の中で一箇所だけ明るい空間があったんです。それが産婦人科でした。
それからしばらく経って、本人も少し成長して、テレビを見ているときに、今産婦人科の医師が不足しているというニュースを見たんですね。ならば私がなりましょうと思ったそうです。聞いていて、私が感動してしまいました。
また、この子の座右の銘があって、それは何かと言うと、「めんどうくさいと決して言わぬ」ことだそうです。
直感的に、いや本当は経験的にですけど、こういう確たる目標を持った生徒は間違いなく志望校に合格します。
坂入;誰が教えたわけでもなく、そういう自分なりの考え方や手法を、中学受験で身に付けているのでしょうか。生徒によって大なり小なりあるような気がしますし、またそういう子供が中学受験で成功していますし、大学入試でも成功している気がします。
荒木;たまたま昨日、生徒と中学受験時代の話をしました。彼女は中学受験の前日に、明日受ける学校の案内書を見るようにしたそうです。案内書って修学旅行や学園祭の写真が載っていますよね。それを見て「ああ、こんな素晴らしい学校に行けるんだ、修学旅行でニュージーランドに行けるんだ」と、そんなイメージをして翌日の試験に臨んだと言うんです。そしてそれは誰に教わったことでもないと。これはよく言われる『心に鮮やかに像を描けば、いつかそれが現実になる』という、大人が高いお金を払って受講するセミナーのようなものの内容を、自分で自分のものにしているんです。小学校6年生ですよ。事実、彼女は受験した6校全部受かっています。いやあ、たいしたものだと思います。
坂入;お茶の水校には中学受験コースも設置されていますが、その卒業生も似たようなことを言っていました。その生徒が『プレジデント・ファミリー』の中学受験体験記の取材を受けたときに言っていたんです。その生徒は、小さい頃からずっとバスケをしていました。多くの受験仲間が趣味をひとまず置いて受験勉強に専念する中、その子は両親にお願いしてバスケを続けていたそうです。さて第1志望の早実の会場に入ったとき、ピンときたそうです。「勉強も一生懸命して、運動も一生懸命して、様々なことに情熱を燃やしてきた自分が、この学校に一番ふさわしい」と。
馬上;そう考えると、中学受験はどこに受かったのかということも大事なのかもしれませんが、大学入試に携わる我々の立場からすれば、その時にどういう『勉強』をしてきたかとか、どういう「姿勢」が身に付いたのかとか、そちらのほうが大切な気がします。
幸いなことに、今そういう生徒たちに巡り会っていて、仮にそういう経験のない生徒が加わっても、朱に混じわれば…ではないですけれど、上手に変わっていく現在の環境を維持していきたいですね。
荒木;そうですね。ただ、勉強する癖はついていますが、やり方は残念ながら中学受験では身に付いていないというのが僕の持論です。30年前の受験生は、自分のやり方を持っていましたが、今の子は持っていないですね。塾が用意したものをこなすことや、長時間勉強をすることには慣れていますし、その結果身に付けた学力は30年前より遥かに高いです。でも「自分なりの工夫」は極めて不得手です。
昔の中学受験の塾は、パソコンもなければワープロもありませんでした。テキストは市販の参考書や問題集です。今、こんな塾ないですよ。先生はほとんど教えてくれませんでしたし、『予習シリーズ』のような詳しい解答解説もありません。これぐらいで分かるでしょうという簡素な解答解説を見ながら一生懸命自分で解法を考えたり、あるいは本屋に行って別の参考書で似た問題を見つけては解答解説を立ち読みしたり、いろいろと工夫して勉強をしたんです。そういう工夫は、中学入学後も活かされます。英単語カードってありますよね。もちろん最初は英単語を覚えるために使うんですけど、そのうち歴史の年号や化学記号を覚えるのにも使えることに気付きます。さらに歴史の年号では、輪っかを外して年号順になっていたのを敢えてバラバラにして、順番を変えてテスト前の確認用に使うとか、自分で工夫のしようがどんどん広がっていきましたよね。ところが今の子は、歴史の年号を覚えたいと言ったら、年号の所だけ赤字にして、赤シートを被せると暗記に便利なプリントをすっと塾が用意してくれる。そうやって受験のプロが敷いたレールに乗せられていましたから、その通り学力は伸びていますけど、レールを外されると自分で何をどうやって良いか分からないんですよ。
だから全部は言わないけれどヒントは与えて、そこを自分で考えられるようにしていかないといけない。中高一貫の最初の3年間は、その役割を僕たちが果たさないといけないと、ずっと思っています。
鈴木;なるほど、中学受験で身についた勉強癖を、自立学習へと導いていくことが大切なのですね。先ほど「中高一貫の最初の3年間の僕たちの役割」という言葉が出てきましたが、駿台フロンティアJr.として、私たちの果たすべき役割とは何でしょうか。
荒木;今、僕たちが預かっている生徒たちは、どこかしらの中学入試で成功した子供たちです。でも中学に入学したら、たとえば近くの桜蔭中学でいうと、240名ぐらいの入学者がいますよね。すると必然的に1番から240番まで順位がつくわけです。桜蔭だけではなく他の中学も、順位を明らかにしない学校は多いですけど、友だちと話せば自分の位置取りはだいたい分かってきます。今まで連戦連勝、ずっとトップで来た子たちは負けることに慣れていないので、必要以上に挫折感に襲われている子もいるのではないかと感じることがあります。そんなときこそ僕たちの果たせる役目というのは出てくると思っています。勝ち癖がついているというのは、勝ち続けるのには良いのでしょうけど、最後まで勝ち続ける子というのは少ないし、最後に勝つ子がそれまでずっと勝ち続けているとも限りません。ですから打たれ強さといったものも、6年間の中で身に付けさせるべきではないかなと思います。
馬上;学校のことと同様に、それは中高一貫駿台生全国テストでも言えるでしょう。全国テストの結果をもとに、タイミングを見つつ、将来のビジョンを踏まえながら、その都度アドバイスをすることも大切な役割の1つだと考えます。もちろん結果が常に良いとは限らないので、心のケアも忘れずにするように心掛けています。
先月、テスト結果に関して話をしていた折、泣き出した生徒がいました。予想以上に自分が出来なかったことに対して悔しくて泣いてしまう。これは「変化」なんです。この変化をどう次に活かすかということを話しました。自分が好きで、こだわってやっていることだから、うまくいかなかったから本気で悔しがる。こういう生徒は間違いなく伸びます。だとしたら今現在預かっている生徒たち全員に勉強、というよりは学問に対して、興味と関心を自然と抱くような空間を提供することが使命だと思っています。
荒木;変化を捉えて、プラスの未来に結びつける。いいですねえ。僕は何をするにしても、多くの場合は勉強ですけれど、「本人を納得させてあげる」ことが大事だと思っています。たとえばある麻布の生徒に言ったのは、「仕方ないでしょ、あなた中学に入学してから今まで勉強していないんだから」と。そう言うと、ほぼ間違いなくその通りなので、本人は納得できるみたいです。これは何もその生徒だけではありません。どんな生徒でも、絶対に中学受験のときよりも1回ペースを落としているので、取りようによっては誰にでも使えるんです。「仕方ないでしょ、勉強しなくなったんだから」と言ってあげることで、まず本人が納得できたとしたら、そこをスタートにするのが良いように思えるんです。「やってないんだから仕方がない」と納得することで、では何をすれば良いのかとなる。単純ですけど「やればよい」と思えるようになるようです。面白いことに、素直にそのことを認める子ほど、その後の伸長が期待できます。だから現状をきちっと本人に納得させてあげて、未来に関しては極めて楽観的に接してあげるのが良いかと考えています。ただし、1年生と3年生とでは接し方が変わってきますよ。学年が上がれば上がるほど、対処の仕方は難しくなります。何より一番きついのは本人ですけど。
坂入;僕はあと、「最後までやりぬく」、僕らの立場からすると、「やりぬかせる」ということが大事な役割だと考えています。
僕がかつて実際に数学の授業を持っていたとき、相当前ですけど、中高一貫の中3のテキストは、駿台予備学校の高1のテキストをそのまま使っていたんです。ずいぶん難しいテキストで、でも大学入試で東大や医学部を狙うという生徒たちでしたから、やっぱり完璧に理解させないといけない、という思いで授業をしていました。ところが僕から見たらまだまだ思考の深さが足りなく感じたし、ひょっとしたら半分ぐらいしか理解できていないかもしれないと心配したこともあります。その子たちが中学部を卒業してから3年経って、中学時代はお世話になりましたと、挨拶に来てくれました。どこの大学に行くのかと聞いたら、東大受かりました、筑波受かりました、千葉大の医学部受かりました、と言ってくるんです。その時思ったのは、天才的に出来るわけじゃなくても、地味にコツコツやり抜けば受かる、ということです。
荒木;当時の予備校の高1のテキストということは、今の中3の『Sαテキスト』と内容的には同じですよね。
坂入;そうです。だから今でもあのSαテキストは難しい、難しいと言っている生徒が多いのですが、全部パーフェクトに分からなかったとしても、真面目にやっていれば必ず受かるという気が非常にしますね。
荒木;僕も、6割でも7割でもいいからとにかく必死でついてきなさいよと、よく言います。一方で学校の勉強も疎かにしてはいけないとも言います。それは学校と駿台との勉強が、ちょうど予習・復習の関係になるからです。たとえば「2次関数」という単元を学校が先でも、駿台が先でも、どちらでも構わないんですけど、6割ぐらい理解したとしましょう。それでは足りないわけですが、少し時間が経ってから学校もしくは駿台で同じ「2次関数」の授業を受けて足りない部分を補えるのです。これを、一度習ったところだから…と油断をしたらいけないですよね。だから学校の勉強もきちっとやりなさいと言いますね。
鈴木;変化を捉えてプラスの未来に結びつけること。そして、最後までやりぬく強さを身に付けさせると同時に、継続するために興味や関心を喚起させること。さらに学校と駿台と1つになることが私たちの役割なのですね。
最後に読者に向かってメッセージをお願いします。
坂入;少し冷たい言い方かもしれませんが、でもこれは僕の愛情です。これから中学受験を向かえる人も、もうすでに駿台に通っている中高一貫校生も、また駿台に通っていようが通っていまいが全ての大学受験を志す人も、その道は自分で選んだ道と覚悟を決め、たとえうまくいかないときでも他人のせいにはせずに、自分で責任をもって全うしてほしいと思います。もし仮に、駿台の門を自らの意志で叩いたのであれば、僕たちはあなたの選んだ道を全うできるよう全力を尽くします。
馬上;まず現在駿台に通っている生徒たちに感謝したいと思います。1日が、1ヶ月が、もっと言うと1年があっという間に過ぎていきます。充実した時間は、時の経つのが早いと言います。本当にありがとうと言いたいです。
その恩返しと言ったらおこがましいのですが、駿台の大学入試におけるデータや、持てる知識を駆使して、お預かりした生徒たちが皆自分の望む大学に合格できるようにしたいと思っています。また6年間、色々な人の意見を聞いたり、そして様々な試行錯誤を繰り返したりしていく中で、自分に合った勉強法や、進む道を見つけていってほしいと思います。
荒木;中3で駿台フロンティアJr.から駿台の現役フロンティアに繋がっていくという視点に立つと、「3年後の駿台、30年後の日本を支える人たちになってほしい」と思っています。3年後の駿台というのは、卑近な目標ですね。駿台は東大や医学部の合格実績はダントツに秀でているわけですから、その中の1人になってほしいと。でもそんなことは、本当はたいしたことではないということも言いたいのです。皆さんは、中学部を卒業してから3年後の大学入試が全てではないのですよと。そのあと、たとえば大学院の試験があるだろうし、あるいは医師や薬剤師の国家試験があるだろうし、あるいは公務員試験があるだろうし、あるいは司法試験を受ける子もいるだろうし、会計士、CPAの試験を受ける子もいるだろうし…いろんな試験が出てきますよね。そしていよいよ30年後、日本を支えるような人に是非なってほしい。それに比べれば大学入試なんて、ほんの一里塚にしかすぎない。そう考えると、僕たちの役割というのは、「3年後の駿台、30年後の日本を支える人材を輩出すること」だと考えています。
鈴木;本日はどうもありがとうございました。
一同;また集まって、ゆっくり話し合いましょう。
